∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part36∧∧
16 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2007/12/31(月) 16:56:25 ID:EfjrEa600
知り合いの話。
彼はデリヘルの送迎を生業としていた。
デリヘルとはデリバリーヘルスの略で、告げられた家やホテルの部屋まで女の子を派遣する業態の風俗のことだ。
「こんな仕事してると、そりゃ変な思いを色々とするんだぜ。
風俗利用する輩ってのは、素直に自分の欲望吐き出すのに使ってる訳で、
中にゃ 実に困ったチャンな客も多いんだよ」
ちょっとでも風俗に関わると、世の中で一番怖いのはやっぱ人間だって思うね。
表に出せないだけで、結構犯罪絡みの話も聞くし、体感したこともある」
そんな話を色々と聞き出していた中に、一寸毛色の変わった話があった。
「あ。そういや怖いマンションがあったわ。
人が怖いんじゃなくて、オカルトっていうか、そっち方面で怖い思いをした。
といっても、俺が見たのが霊かどうかは本当わからないけど」
「プレイ時間は基本六十分が多いからな。
女の子送り届けて、また迎えに来るまで、一時間ほど時間を潰さにゃならん。
でもそのマンションっていうのが山深い所にあってよ、街中まで帰るとどうにも時間が中途半端なんだ。
だからもう帰るのは諦めて、少し離れた辺りに路駐して仮眠取ってたワケ」
「そしたらよ、誰かが窓を叩いて起こしやがる。
でっきりお巡りかと思って大慌てで飛び起きりゃ、これが誰もいないんだ。
おかしいなぁってんで外に出てみたんだが、猫一匹いやしない」
17 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2007/12/31(月) 16:57:27 ID:EfjrEa600
「首傾げながら車に戻ったんだが、しばらくしてまたダンッって窓叩かれた。
今度は寝てなかったからよ、モロに見ちまった。
いきなり空中に白い手が現れて、フロントガラスを叩いてったのを」
「もう頭が真っ白で、必死でエンジン掛けて車を出したんだ。
峠半分下った辺りで冷静になったんだが、あかん、まだ三十分も残ってる。
仕方なく時間が来るまで、峠をグルグル登ったり下りたりしてた。
真っ暗闇であんなの見てしまうと、駄目だね。ビビるね」
しみじみと彼はそう述べた。
彼の言うマンションが、正に私の友人が住んでいる所と知ったのは、その後しばらく経ってからだった。
18 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2007/12/31(月) 17:01:28 ID:EfjrEa600
件のデリヘル送迎をしている彼から連絡があった。
一杯奢ってくれたら、怖い話をしてやるぜという。
焼鳥屋で落ち合い、話を聞いた。
「やんなっちまうよ。前に話したマンション、あっただろ。
あれからしょっちゅうお呼ばれしてるんだ。
怖いから嫌だって抗議したんだが、駄目だとさ。
まぁうちで送迎しているのは俺一人みたいなモンだから、仕方ないんだが」
「うん、止めてるとやっぱり窓叩かれる。
それだけじゃなくて、車内が生臭くなるようにまでなった。
だから同じように、峠を上り下りしてたんだけど」
「丁度峠の中程でな、白い女が立ってたんだ。
いや立ってるだけで何する訳じゃないんだが。
時間が時間だけにおかしいなって」
「気にしないようにして時間を潰し、女の子迎えにマンションに戻ったんだけど。
帰る時もその白い女、同じ場所にずっと立ってるんだ。
そこで女の子に『変な女が立ってるね』なんて話振っちまった。
失敗だったなぁ」
「その子には、その白い女が見えていなかったんだ」
あそこから電話がある度、もぅ泣きそう。ボヤきながら奢りの酒を飲んでいた。
19 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2007/12/31(月) 17:03:15 ID:EfjrEa600
件のマンションからの電話は、月に二回のペースで途切れることがなかった。
オーナーに直談判し、一時はその客は断ろうという流れになったのだが、結局断れなかったのだという。
その客は常にダブル、つまり倍の時間で予約を入れ始めたのだ。
往復の経費が一回で済むことを考えると、これは美味しい。
そのせいかどうか、マンションの客は御得意様になってしまったそうだ。
「まぁダブルになったんで、街中まで帰っても時間がイイ感じになったんだけどな。
でもやっぱり、あそこに行くのは嫌だよ」
「この前、俺が都合付かず休んだ夜があったんだ。
だからその日は仕方なく、オーナー自ら送迎に走ってた。
で、俺にとっては運良くその日に、あのマンションから電話があったのよ。
オーナーも俺から話は聞いてたんで、ビクビクしながら出向いたって」
「窓は叩かれなかったそうだ。・・・窓はね。
『何だあの野郎、怖がりすぎなんだよ』そんなこと思ったらしいな。
で、マンションの前面道路に車止めて一服してたら、変なモノが見えたって。
奥側の建物、その壁面を、何か大きな物が這ってたんだとさ」
「月もろくに出ないような暗い晩だったのに、何故かくっきりと見えたんだと。
大トカゲか大ヤモリでも見たんスか?って尋ねたら、怖い顔してこう言ったさ」
「『ヤモリがフレアのロングスカートなんて履く訳ねぇだろ』って」
「そいつはスルスルと明かりの点いていない部屋のベランダに滑り込んだらしい。
見えなくなってから、即座にそこを後にしたってよ。
だから止めましょうよアソコ!ってしつこく抵抗したんだが、
金には勝てなかったみたいで、それからもずっと、今に至るもお得意様。
でもオーナーは、自分ではあそこに二度と行ってないけどな」
腹立たし気にそう言っていた。
84 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2008/01/03(木) 01:21:34 ID:TBYa9b350
他のデリヘル業者は、そのマンションに呼ばれんの?
私の質問に、彼はキョトンとした顔をした。
「そういやそうだな。今度聞いてみるわ」
それからしばらくして、また一緒に飲む機会があった。
今度は可愛い女の子が二人、彼にくっついてきていた。
合コンじゃないかと私が喜んでいると、釘を刺される。
「手ェ出すなよ。うちの売れっ子なんだから」
・・・そうですか。そういえば、何となく見覚えがあるような。
「あるのかよ。ところでお前、酒飲めなかったろ。今日は俺たちを送ってってな」
それで俺を誘ったのかよ。
「「お願いしま~す!」」女の子はハモってるし。
それなりに楽しくはしゃいでいるうち、話があのマンションのことに飛んだ。
「そうそう。あれから余所の業者に聞いてみたんだが、すっぱり言われたよ。
あそこから問い合わせがあっても、『今日はもう予約で一杯です』なんてことを言って断るんだと。またのご利用を~ってな」
やっぱり何かあったのかな?
「うん、最初に請けた時に、ちょっとね。
伝えられた部屋まで行って呼び鈴ならしても、誰も出て来なかったんだと。
店に連絡して、客に電話してもらったんだが、これまた誰も出ない。
部屋の中で電話が鳴っているのは、間違いなくドアの外でも聞こえるんだけど。
悪戯かよって帰ろうとした時、管理人が来ちゃってさ」
85 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2008/01/03(木) 01:22:21 ID:TBYa9b350
あらら。不審者扱い?
「まぁ不審者っちゃ、不審者だわな。
『何してるんですか』って聞かれたから、『いやこの家の人に呼ばれたんですけど』
って、女の子も正直に答えたってんだ。
そしたら管理人のオッサン、トンでもないこと言い出した。
『ここの人、ついこの前死んじゃってるから、今ここは誰も住んでないよ』
えーっ!?ってモンだよなぁ、そんなこと言われた日にゃあよ。
無人の部屋の前に誰か知らない人がいるって同じ階の住民から報告があったとかで、
それで管理人が渋々出て来たらしいんだ。『またかっ』って顔してたって。
女の子もビビってたが、管理人も負けず劣らずビビってたってよ」
そりゃ管理人も夜は出張りたくないだろうなぁ。
「だよなぁ」
思わず溜息がハモっていた。
86 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2008/01/03(木) 01:23:31 ID:TBYa9b350
「まったく、何でうちのオーナーはあそこを断らないんだろうなぁ。
いくら金払いがいいって言ってもよ」
彼がそうボヤいていると、女の子の一人が口を挟んだ。
「だってあそこは特別だモン」
ん? 何か知ってるの。
「あそこに呼ばれてるの、○○ちゃんでしょ」
「そそ、うちで一番の売れっ子の。
あ、いや、別に君たちが売れっ子じゃないって事じゃなくてね・・・」
焦って失言を訂正しようとする彼を無視して、女の子は続けた。
「○○ちゃん、あの御山のマンションに住んでるの。
っていうかここだけの話、○○ちゃんを指名してるお客さんって、
○○ちゃんの実のお父さん」
爆弾発言を聞いて、彼は本当に顎が落ちそうな顔をした。
多分、自分も似たり寄ったりの顔をしていたのだと思う。
呆然自失な男どもを置いてけぼりにして、女の子たちの会話は続く。
「マンションを買ってしばらくしてから、お母さんが死んじゃったんだって。
それから家の中のことが、段々とおかしくなっていったんだって。
お父さんも奇妙なっていうか、怪しいこと口にし始めて、少し後に仕事も辞めちゃったって。
っていうか、辞めさせられたのかな」
「だからあの子がこの仕事始めたのも、家計を助けるためだったらしいよ。
妹さんが大学に受かったから、絶対卒業させてやるんだって言ってた。
いや、妹さん上京してるらしいから、お姉ちゃんがこんな仕事してるって知らない筈だよ」
87 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2008/01/03(木) 01:24:27 ID:TBYa9b350
「何でお父さんがデリのこと知ったかって、それは私たちも知らないよ。
呼ばれた時、どんなことしてるかって? とても聞ける訳無いジャン」
「でも仕事が終わると、ちゃんと真面目に家に帰るのよ彼女って。
指名があった次の朝って、どんな顔して会話してるんだろうって思うよ」
男どもは絶句したまま。
「オーナーが、呼ばれる所と彼女の住所が一緒だってことに気が付いてね。
しばらくは聞けないで困ってたみたい。
でも私たちみたく店の子も勘付き始めたんで、とうとう尋ねることにしたらしいのね」
「そしたら○○ちゃん、父の好きにさせてやって下さいって、お願いしたんだって。一生懸命働きますからって。
だから、あの子が一番売れっ子って聞かされても、仕方ないやって思う。
私たちとは頑張りが違うモン」
「・・・それでオーナー、あの客を断らないのか・・・」
彼はようよう、それだけ口に出した。
「○○ちゃん言ってた。妹の学費分稼いだら、あそこから出て行くって。
お父さんは?って聞いたら、凄く寂しそうな顔して・・・
だからそれ以上、誰も家族の話には触れられないの」
「自分たちはあそこに長く居ちゃいけない、そう言ってた。
他の家はどうなのか知らないけど、
自分の家族は、あそこに居れば居るほどおかしくなっていくのがリアルにわかるんだって。
だから妹には出来るだけ帰ってくるなって、そう言い聞かせてるんだって」
88 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2008/01/03(木) 01:25:31 ID:TBYa9b350
とても合コンどころではなくなってしまった。
・・・送ろうか。私が言うと皆「うん」と素直に頷く。
二人の女の子を順に降ろして、最後に彼を送る途に着く。
女の子は下りる際、名刺を私の手に握らせてきた。
「次から指名してね。顔と名前覚えたからね!」
「携帯番号もゲットしてるしね!」
「「サービスしてあげるから!!」」
・・・ロックオンされたかな。いわゆるカモの。
「されちゃったかもな。まぁ嫌われるよりイイじゃねえか」
二人きりになった車内でたわいもない会話を交わす。
家近くになってから、ぼんやり外の夜景を眺めていた彼が、ポツリ呟く。
「俺、就活するわ。何故かしらんけど真面目に働かないとイカンって気になった。
っていうか、長いこと風俗に関わっちゃいけんわ。
やっぱ稼ぐ方じゃなくて、楽しむ方だけに止めとくべきだな」
頑張れ。俺にだって務まってるんだ。簡単なモンさ。
「そうは言うが、一度ドロップアウトするとコレが結構厳しくてな。
まぁ伝手辿ってどうにかしてみるよ」
少し前、彼から連絡があった。
実家に戻って、家業の手伝いをすることになったのだという。
他県なので一緒に遊べなくはなったが、ちょっとだけ嬉しく思った。
件の彼女は、もうそのデリヘル店を辞めているようだ。
現在彼女が何処で何をしているのか、私の周りで知る者はいない。